大都会の真ん中に建つ近代的なマンションであれば、スズメバチの脅威とは無縁だと信じている人は少なくありませんが、実はそれは大きな誤解です。自然豊かな山間部とは異なるものの、都会のマンション特有の構造が、ある種のスズメバチにとっては極めて魅力的な営巣場所を提供しているのです。特に適応力が高いキイロスズメバチやモンスズメバチにとって、マンションのベランダは雨風を防げる上に、天敵となる大型の鳥や他の動物が少ない、安全な要塞となります。彼らが好んで選ぶのは、普段動かすことのない「エアコンの室外機」の裏側や底部です。室外機からは適度な振動と熱が発生することもあり、蜂にとっては居心地の良い環境になりやすいのです。また、ベランダの天井の隅や、避難はしごを格納しているボックスの隙間、さらには集合住宅特有の「パイプシャフト」の扉の隙間なども、スズメバチが巣を作る代表的な場所です。高層階であっても油断はできません。彼らは上昇気流に乗って十数階、時にはそれ以上の高さまで容易に到達し、そこで静かに巣を築き始めます。都会のスズメバチが場所に困らない理由の一つに、餌の豊富さがあります。街路樹や公園、家庭のベランダに植えられた植物に集まる昆虫だけでなく、人間の出すゴミから出る栄養分までもを彼らは利用します。マンションにおける防除の難しさは、その場所が自分だけの専有部分ではないことにあります。隣の部屋のベランダや、共用部の普段誰も通らない非常階段の裏側などに巣が作られた場合、発見が遅れ、気づいたときには数千匹の働き蜂が飛び交う巨大な巣になっていることも珍しくありません。管理組合や管理会社による定期的な巡回点検において、屋上の排水溝周辺や、外壁のクラック(ひび割れ)、さらには換気フードの内部といった「高い場所」の点検が推奨されるのはこのためです。都会で暮らす私たちにできる予防策は、ベランダを物置にせず、常に風通しの良い清潔な状態を保つことです。放置された植木鉢や、積み上げられた段ボールの山は、蜂にとって「ここに巣を作ってください」と言わんばかりの好条件となります。都会のスズメバチは、人間に見つからない場所を特定する天才です。その知恵に対抗するためには、私たちもまた、自分たちの住まいを客観的に眺め、彼らが好みそうな死角を一つひとつ潰していくという、都市型の防除意識を持つ必要があります。
都会のマンションにも潜むスズメバチの巣が作られやすい場所