それは、春の暖かな日差しが差し込む日曜日の昼下がりのことでした。冬の間お世話になったウールのセーターをクリーニングに出そうと、クローゼットの奥から引っ張り出した瞬間、私の視界の端で何かが動きました。目を凝らしてよく見ると、セーターの表面に、体長数ミリほどの茶色くて毛むくじゃらの「何か」が、ゆっくりと這っていたのです。その時の鳥肌が立つような不気味さは、今でも忘れられません。慌ててスマホで検索して辿り着いた名前が、ヒメマルカツオブシムシの幼虫でした。ネット上の画像と目の前の虫を照らし合わせ、それが大切な服を食べる害虫だと知った瞬間の絶望感といったらありません。さらに恐ろしいことに、そのセーターの胸元には、あざ笑うかのように直径五ミリほどの綺麗な丸い穴が開いていました。一人暮らしを始めて三年、掃除はそれなりにしていたつもりでしたが、クローゼットという聖域が、いつの間にかこの虫の繁殖地になっていた事実に打ちひしがれました。その日から、私とヒメマルカツオブシムシ幼虫との孤独な戦いが始まりました。まず取り組んだのは、全ての服を外に出して行う「検品」作業です。一着ずつ明るい場所で裏返してチェックしていくと、別のコートの襟裏からも、さらに二匹の幼虫が見つかりました。彼らはまるでお気に入りのレストランを見つけたかのように、高価なカシミヤ混の生地にしっかりと食らいついていたのです。掃除機でクローゼットの隅々のホコリを吸い取り、隙間に溜まっていた髪の毛や綿ゴミを徹底的に排除しました。調べてわかったのは、彼らがホコリの中に含まれるフケや髪の毛さえも餌にして生き延びるという、信じられないほどの図太さを持っていることでした。私は全てのウール製品をコインランドリーの高温乾燥機にかけ、熱で卵ごと息の根を止める作戦に出ました。また、それまでケチって少なめに使っていた防虫剤を、これでもかというほど規定量しっかり設置しました。一人暮らしの狭い部屋では、クローゼットの中は湿気が溜まりやすく、彼らにとっては最高の楽園だったわけです。この事件以来、私の生活習慣は劇的に変わりました。洗濯物を外に干した後は一着ずつ激しく振り、成虫の侵入を水際で防ぐようになりました。また、クローゼットの扉は毎日一時間は開け放ち、風を通すことを欠かしません。あの茶色い毛むくじゃらの姿を思い出すだけで、今でも背中がゾクっとしますが、その恐怖心こそが、今の私の部屋の清潔さを守る最強の武器になっています。虫食いは自分には関係ないという過信が、あの日の一着の犠牲を招いたのだと、今は深く反省しています。
一人暮らしの部屋でヒメマルカツオブシムシ幼虫と遭遇した恐怖の記録