我が家は、築40年を超える古い木造の一戸建てです。数年前の冬、キッチンの隅、冷蔵庫の横のわずかな隙間で、私は、黒くて小さな米粒のようなものを一つだけ見つけました。「なんだろう、これ」。その時は、どこかから紛れ込んだ木の実か何かだろうと、特に気にも留めず、ティッシュでつまんでゴミ箱に捨ててしまいました。それが、後に続く長い戦いの、始まりのゴングだったとは、その時の私は知る由もありませんでした。数週間後、今度は、シンクの下の収納棚の中で、同じような黒い粒を、数個発見しました。さすがに「おかしい」と感じた私は、インターネットで検索し、それが「ねずみのふん」である可能性に思い至りました。しかし、「まだ数個だし、姿を見たわけでもないし、大丈夫だろう」と、私はまたしても問題を先送りにし、市販の粘着シートを数枚、適当に置くだけで済ませてしまったのです。その甘い判断が、悪夢を呼び込みました。春になり、暖かくなると、事態は急激に悪化しました。夜中、天井裏から、カタカタ、ドタドタと、何かが走り回る音が聞こえるようになったのです。眠りが浅くなり、妻も「なんだか気味が悪い」と不安がるようになりました。そしてある朝、決定的な出来事が起こりました。食品庫に置いてあった、まだ封も切っていないお米の袋に、小さな穴が開けられ、中身が床に散らばっていたのです。さらに、その周りには、無数の黒いふんが。私はついに、自分たちが深刻な事態に陥っていることを認めざるを得ませんでした。慌ててプロの駆除業者に依頼し、床下や天井裏を調査してもらった結果、我が家は、クマネズミの大家族に、完全に乗っ取られてしまっていることが判明したのです。駆除と侵入口の封鎖には、20万円近い費用がかかりました。業者の方に言われました。「最初の一個を見つけた時に、すぐに対策していれば、ここまでひどくはならなかったでしょうね」。あの時、最初の一つのふんを見つけた時に、そのサインの重みを理解し、すぐに行動を起こしていれば。私の一個のふんに対する甘い認識が、家族を不安にさせ、大きな出費を招いてしまった。その後悔は、今も消えることはありません。
一個のふんを無視した私の後悔