日本の古い住宅や図書室、あるいは長年放置された物置などで、銀色に光る素早い虫を見かけたことはないでしょうか。それは「衣魚(シミ)」と呼ばれる、原始的な形態を今に残す害虫の一種です。彼らはその名の通り、衣類や紙類を好んで食べることで知られていますが、現代の家庭において最も警戒すべき彼らの温床が「ダンボール」です。衣魚がなぜこれほどまでにダンボールを好むのか、その理由は彼らの特異な食性とダンボールの物理的特性が完璧に合致していることにあります。まず、衣魚の主食はセルロースや澱粉です。ダンボールは木材パルプを原料とした凝縮されたセルロースの塊であり、さらにその多層構造を接着するために大量の澱粉糊が使用されています。衣魚にとって、ダンボールは壁も床も屋根もすべてが自分の大好物で作られた「お菓子の家」のような存在なのです。また、衣魚は光を極端に嫌い、湿度の高い暗所を好む性質がありますが、ダンボールの内部にある波状の隙間は、彼らが安全に隠れ、かつ湿度を維持するための最高の空間を提供します。驚くべきことに、衣魚は絶食に非常に強く、何も食べなくても一年近く生き延びる個体さえいますが、ダンボールの中にいれば食料が尽きることはありません。このため、押し入れの奥や倉庫の隅で数年間放置されたダンボールは、衣魚にとって世代を超えて繁殖を繰り返せる聖域となってしまいます。もし、ダンボールの中に大切な古書や写真、あるいは和服などを一緒に保管していた場合、衣魚はダンボールを足がかりにしてそれらの貴重品に侵入し、表面を削り取るように食害して修復不可能なダメージを与えます。彼らの被害を防ぐための技術的なアドバイスとしては、何よりもまず「保管にダンボールを使わない」という一点に尽きます。特に長期間の保管には、プラスチック製の密閉容器を使用し、内部に乾燥剤を同梱して湿度を低く保つことが最も効果的です。衣魚は非常に長寿な虫であり、一度住み着くと根絶には徹底した環境改善が求められます。ダンボールという安価で便利な素材が、実は古くから人間を悩ませてきた「紙を食べる魔物」の最良の共犯者であるという事実を、私たちはもっと深刻に受け止めるべきです。資料や思い出を未来に残すためには、まずその保管場所からダンボールを排除するという、確固たる決断が必要なのです。