それは、空気が澄み渡り、金木犀の香りが心地よい、10月のある晴れた日のことでした。私は、週末にまとめて洗ったシーツやタオルケットを、気持ちよく晴れたベランダいっぱいに干しました。太陽の匂いをたっぷりと吸い込んだ、ふかふかの洗濯物を取り込む。それは、私にとって、ささやかな幸せを感じる瞬間の一つでした。その日も、夕方になり、すっかり乾いたシーツを取り込もうと、手を伸ばした、その時です。白いシーツの上に、見慣れない緑色のシミが付いているのに気づきました。そして、そのシミのすぐそばに、一匹のクサギカメムシが、ひっくり返って死んでいるのを。しまった、と思った時には、もう遅でした。シーツを顔に近づけると、あの、言葉では表現しがたい、独特の青臭い悪臭が、鼻腔を突き抜けました。カメムシを、洗濯物と一緒にはたいて、潰してしまったのです。私はパニックになりました。せっかく洗ったばかりの、太陽の匂いがするはずだったシーツが、世界で最も不快な匂いの一つに汚染されてしまったのです。私はすぐに、そのシーツだけを隔離し、もう一度、洗濯機に放り込みました。洗剤を多めに入れ、念入りに洗い、そして再び干しました。しかし、乾いたシーツを嗅いでみると、まだ、うっすらと、あの忌まわしい匂いが残っているのです。絶望的な気持ちでインターネットを検索すると、「カメムシの臭いは油性なので、水洗いだけでは落ちにくい」「界面活性剤やオイルクレンジングで部分洗いすると良い」といった情報が見つかりました。私は藁にもすがる思いで、食器用洗剤をシミの部分に直接つけて揉み洗いし、三度目の洗濯に挑みました。その結果、ようやく、あの悪臭はほとんど気にならないレベルにまで薄まりました。この一件以来、私は、秋晴れの日に洗濯物を干す際には、必ず、取り込む前に、一枚一枚、カメムシが付いていないかを目視で確認するという、過剰なくらい慎重な習慣が身についてしまいました。あの緑色の小さな悪魔は、私から、洗濯物を取り込む際の、ささやかな幸せを、いとも簡単に奪い去っていったのです。