水中で生活する赤い虫「赤虫」。その愛らしい(?)姿からは想像もつかないかもしれませんが、彼らが成長し、羽化すると、私たちの夏の夕暮れを悩ませる、あの不快な「蚊柱」を作り出す「ユスリカ」の成虫になります。赤虫とユスリカは、芋虫と蝶のように、同じ生物の全く異なるステージなのです。まず、はっきりとさせておきたいのは、ユスリカは蚊の仲間によく似ていますが、人を刺して血を吸うことはない、という点です。彼らの成虫は口が退化しており、数日の短い寿命の間、水分を摂る程度で、基本的には食事をしません。その短い一生を、子孫を残すためだけに捧げます。では、なぜあの「蚊柱」を作るのでしょうか。夕暮れ時、公園や川辺で、無数の虫が柱のように集まって渦を巻いている光景。あれは、ユスリカのオスがメスを誘うための集団求愛行動(スウォーミング)なのです。オスは特定の目印の上空に集まって群れを作り、メスはその群れの中に飛び込んで交尾相手を見つけます。彼らにとっては、子孫繁栄のための重要な婚活パーティー会場というわけです。しかし、人間にとってはたまりません。蚊柱に突っ込んでしまうと、口や目に入ってきたり、衣服にびっしりと付着したりと、強烈な不快感をもたらします。また、大量発生したユスリカは、家の壁や網戸、洗濯物にびっしりと張り付き、美観を損ねます。さらに、その短い命を終えた後の死骸も問題です。乾燥して粉々になった死骸を吸い込むことで、アレルギー性鼻炎や気管支喘息(ユスリカ喘息)を引き起こす原因となることも知られています。一方で、彼らは生態系において重要な役割も担っています。幼虫である赤虫は水質を浄化し、成虫のユスリカは鳥やコウモリ、他の昆虫などの貴重な餌となります。赤虫からユスリカへ。その変態は、水辺の生態系の循環を支える、ダイナミックな生命の営みの一部なのです。