庭の落ち葉の下や、家の基礎周りなどで、黒くて細長く、たくさんの脚を持つ、ゲジゲジのような虫に遭遇したことはありませんか。しかし、その虫が、危険を感じて体を丸めたり、比較的ゆっくりと進んだりするようであれば、それはゲジゲジやムカデではなく、「ヤスデ」である可能性が高いです。ヤスデは、そのグロテスクな見た目から、不快害虫として嫌われていますが、彼らが「臭い虫」の仲間であることを知る人は、あまり多くありません。ヤスデは、ムカデのように人を咬んだり、毒を持っていたりするわけではありません。彼らの主食は、腐った落ち葉や朽ち木などの腐植土であり、土壌を豊かにしてくれる自然界の重要な「分解者」です。つまり、生態系においては益虫と言えます。しかし、彼らが不快害虫、そして「臭い虫」とされるのには、二つの理由があります。一つは、梅雨時などに、時に数千、数万という信じられない数が大量発生し、壁やブロック塀を埋め尽くすように徘徊し、家の中にまで侵入してくることがあるからです。もう一つの理由が、彼らが持つ、独特の防御手段です。ヤスデは、危険を感じたり、外部から強い刺激を受けたりすると、体の側面にある臭腺から、不快な臭いを持つ液体を分泌するのです。この液体の臭いは、種類によって異なりますが、ヨードやクレゾールに似た、薬品のような臭いと表現されることが多く、一度衣服などに付着すると、なかなか取れません。また、この液体には、シアン化合物などの有毒物質が含まれていることがあり、肌の弱い人が触れると、ヒリヒリとした刺激を感じたり、水ぶくれができたりすることもあります。そのため、家の中に侵入してきたヤスデを駆除する際に、安易に素手で触ったり、スリッパで叩き潰したりするのは、避けるべきです。潰すと、強烈な悪臭が部屋に広がり、後始末が非常に大変になります。ほうきとちりとりで静かに集め、屋外の土に還してあげるのが、最も平和的な解決策と言えるでしょう。