私たちは、ゴキブリが「嫌いな匂い」にばかり注目しがちですが、彼らを家から遠ざけるためには、その逆、すなわちゴキブリを強力に「引き寄せる匂い」を、私たちの生活空間から徹底的に排除することの方が、実ははるかに重要です。あなたが気づかないうちに発しているその匂いが、近隣のゴキブリたちに対して、「最高のレストラン、ここにあり!」という、強力な招待状を送っているとしたら、どうでしょうか。ゴキブリを最も強く誘引する匂い、それは、言うまでもなく「食べ物の匂い」です。特に、彼らが好むのは、糖分とタンパク質、そして油分を豊富に含んだ、栄養価の高い匂いです。例えば、キッチンのコンロ周りに飛び散ったままの「油汚れ」の匂い。シンクに放置された、ビールの空き缶から漂う「アルコールと糖分」の匂い。あるいは、床にこぼれた「ジュースのシミ」や、ペットの「フードの食べ残し」の匂い。これらは全て、ゴキ-ブリの鋭敏な嗅覚を、強烈に刺激します。また、彼らは腐敗臭にも敏感です。蓋の開いたゴミ箱から漏れ出す「生ゴミ」の匂いや、排水溝から上がってくる「ヘドロ」の匂いは、彼らにとっての道しるべとなります。そして、意外な盲点となるのが、ゴキブリ自身が発する「フェロモン」の匂いです。ゴキブリは、安全な隠れ家や、餌場を見つけると、仲間にその場所を知らせるための「集合フェロモン」を、フンと共に排出します。もし、家のどこかにゴキブリのフン(黒い点々)が多数付着している場所があれば、そこは、他のゴキブリをも引き寄せる、危険な「マーキングポイント」と化しているのです。これらの誘引臭を断ち切るための対策は、非常にシンプルです。それは、こまめな「清掃」と「密閉」です。油汚れはその日のうちに拭き取り、ゴミは蓋付きの箱へ、食品は密閉容器へ。そして、フンを見つけたら、アルコールで拭き上げてフェロモンごと除去する。嫌いな匂いをプラスする前に、まずは好きな匂いをマイナスする。その基本的な衛生管理こそが、最強のゴキブリ対策となるのです。