それは、私が一人暮らしをしていたアパートで、長期の旅行から帰ってきた、ある夏の日のことでした。旅の疲れもあって、数日間、私は家のことを放置していました。そして、旅行前に出し忘れていた、キッチンのゴミ袋を片付けようと、ゴミ箱の蓋を開けた、その瞬間。私は、言葉を失いました。ゴミ袋の口の周りや、ゴミ箱の底に、おびただしい数の、白くうごめく小さな粒々。ハエの幼虫、ウジです。そして、何匹かのハエが、ゴミ箱の中から飛び出してきました。私のキッチンが、私の留守の間に、ハエの繁殖施設、巨大な巣窟へと変わり果てていたのです。強烈な不快感と、自己嫌悪に襲われながら、私は、人生で最も過酷な掃除に取り掛かりました。ゴム手袋とマスクで完全防備し、震える手で、問題のゴミ袋を、さらに大きな袋に入れて、固く、二重、三重に縛り上げました。そして、空になったゴミ箱の底で、まだうごめいている幼虫たち。私は、沸騰したお湯をやかんに満たし、それを一気にゴミ箱の中に注ぎ込みました。ジュッという音と共に、幼虫たちの動きが止まったのを確認した時、私はようやく、少しだけ呼吸ができるような気がしました。その後、私は洗剤とブラシで、ゴミ箱の内外を、まるで新品にするかのように、何度も何度も洗い続けました。原因は、全て私の油断にありました。旅行前に、生ゴミをきちんと処理しなかったこと。そして、蓋付きではあったものの、密閉性の低い、安物のゴミ箱を使っていたこと。この二つの小さな怠慢が、あの悪夢のような光景を生み出したのです。この一件以来、私のゴミに対する意識は、劇的に変わりました。生ゴミは、必ず水気を切り、小さな袋に入れてから、密閉性の高いゴミ箱に捨てる。そして、長期間家を空ける前には、必ず家中のゴミを空にする。あの白い幼虫たちは、私に、衛生管理の基本と、日々の小さな習慣の重要性を、最も強烈な形で教えてくれた、忘れられない教師となったのです。